山本
いつも思ってるんですけど、僕がアニメ演出の最低レベルであって欲しいんですよ。それが謙虚すぎるんだったら、自分がボーダーラインでいいと思うんですよ。僕は普通の演出をやっているだけなんだと。
更科
それはカッコよすぎるんでしょう。(笑)
山本
いや、そうあるべきだと思うんです。若い頃、そこまで頭にきたんです。なんで俺程度のものすらできないんだと。もっと言うと、なんで俺程度のものができてないヤツが、エラそうに演出やってんの? 監督やってんの? という思いがあったんです。
だから「お前の演出、普通じゃん」と言われ
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るとうれしいんですよ。普通ができたらええねんって。ハルヒダンスとか、あれはほんとに味付け程度なんで。演出は過不足なく、ストーリーが分かって、キャラの心情が分かって、言動に矛盾がなくてという、当たり前のことを当たり前のようにやることが大事なんだと。
更科
当たり前のことをやって、他の作品とちょっと違うと思われるくらいがいい、と。
山本
そうです。もちろん商売気はあるから、スパイスはちょっと効かせますけど、そんなものはタバスコ一滴程度ですよ。やっぱり味のベースになるパスタの作り方
をみんあ学んでよ、と。後輩には必ず言ううんですよ。まず、普通の見た目になるように作ってと。奇をてらって、これは絶対、誰もやったことのない演出だと
思っても、それは絶対に誰かにやられてるから、普通の画面をまず作れよ、って。普通の演出ができれば、違うやり方もあることが分かってくるからと。だか
ら、普通の画面を見て、普通の作り方を学んで、普通の演出をして……そこからスタートかな、と思ってるんですよ。
更科 それは、飛び道具でガッとつかむよりも、はるかに難しいことをやろうとしているような気がしますね。
山本
シャフトの新房(昭之)さんもそうだと思うんですけど、ああいう方々って、普通の演出できるんですよ。だから奇をてらえるんですよ。たぶんこういう人たち
の名前出しはじめたら、全部そうだと思うんですけど、普通のことをできるんですよ。できてない人間はどんどん落ちて行くんだと思うんですけど。
更科
オレはマンガ編集者時代、そういうコマ運びのスキルを「基礎体力」と言っていたんですが、アニメ業界にもやっぱり、その体力が低下しているということなんですか?
山本
全体的に低下していると思います。
最近、リズムを作れる演出家がいないんですよ。四、五年前に水島さんと飲んだ時に、水島さんとも意見一致したんですけど、セリフでリズムが作れない。マス
ターショットがあって、切り返しで会話劇を続ければ、切り返しの応酬で自ずとリズムが形成されていくはずなんですよ。これができてない。編集の基本中の基
本なのに。だから最近、演出家の腕じゃなくて、編集マンの腕を疑うようになってきて。たとえば、テレビドラマはちゃんとそれができてるんですよ。もちろ
ん、アメリカのテレビドラマや映画も、それはできている。なんで日本のアニメだけできてないんだ、と。
その中ではやはり東映(アニメーション)がいいんですよ。枚数の少なさを補いきれなくてダメな回もあるんですけど、やっぱりメソッドがしっかりしているから観れちゃうんですよ。『プリキュア』はその最たる例ですよ。
更科
東映アニメーションの場合は、枚数制限による演出上の制約が大きいので、その意味で常にスキルアップを要求される環境ということなんでしょうね。
山本
知り合いの大塚隆史くんが、東映で『プリキュア』の演出やってるんですよ。それで、彼の仕事をずっと見ているんですが、どんどん上手くなるなー、って。そ
ういうのが撮影所というか、一から十まで自分たちで作って納品できる環境の強みなんですね。京アニでもそれができるはずなんですけどね(笑)。
- 〈デタラメな奇跡〉としてのアニメ - PLANETS VOL.5