更科
監督の視点で、現場を統括して見るようになって、意識的に変わったところはありますか?
山本
『らき☆すた』の時から思ってたんですけど、いい意味でも悪い意味でも「守り」に入りましたね。守りっているのは、作品を守るっていうことですね。
各話演出の頃も、もちろん原作があったら原作を読み込んで、作品世界はどうであるとか、全体の構成はどうであるとか、前の話数と自分の話数、次の話数をど
うリレーして行くのかっていうのを考えてやってたんですけど、やっぱりまずはその自分の話数さえ良ければいいっていう感覚だったんですよね。
更科
目立ってナンボや、みたいな感じで。
山本
目立つというか、他のは知らんっていう感じで。とりあえず自分の仕事は各話だけだから、他のことなんざ構っていられるかって感じだったんですけど、やっぱ
り監督をやるとなったらシリーズ一本を最初から最後まで面倒を見なければいけない。オンエアの最初から最終回まで面倒見なきゃいけない。
これは庵野さんの喩えなんですけど、両脇に穴の開いた軍艦をどうやって軍港までたどり着かせるか、テレビアニメはそういうものだと庵野さんは言ってるんで
すけど、そういうことをやっぱり実感しましたね。とにかく軍港にたどり着かなきゃ、やっぱり最初っから最後まで面倒見る、ちゃんとやりきる、というところ
が大事なんだなと。力の配分であったり、スタッフの編成であったりとか、そういうとこにすごく気を使うようになりました。『らき☆すた』はそれをちゃんと
やろうとしている最中にわけもわからず降ろされちゃったんですが(笑)。まぁ、自分が今度はコントロールする立場になったんだなと。これはね、意図的に切
り替えた部分もあったんですけど、ぶっちゃけ、僕は監督をやりたくなかったんです。一生懸命、各話一本ずつ作って結果を出していくのが自分の性に合ってい
るというか、暴れやすかった。トータルなことは監督に任せて、あとは監督とプロデューサーがやってくれたらいいや、みたいな感覚で。
でも、ある日、とある監督と大ゲンカした時に諭されたんですよ。「山本、お前卑怯や」と。「お前は安全圏から石投げてるだけや」と。「もうそういう時期やない、お前が責任持って一本監督やるべきや」と。「でないと卑怯や」って言われたんですよ。それからですね。
更科
それは、いつ頃でしょうか?
山本
えーと、『AIR』の直前です。そういう話もあって、あー、そろそろなんだなと。
やっぱり、各話演出の頃はとにかく俺に全部任せろと、コンテチェックでワンカットも触るなと。ワンカットでも触られたら頭にきて文句言いに行ってたんです
よ。こっちはもう一から十まで計算し尽くしているから、ワンカット変わった瞬間にやっぱり全体が変わるんですよ。それがモンタージュ理論ってもんだから、
そこを適当に変えられたら困るっていう感覚で、これも何回もいろんな監督とケンカしたんですね。
でも、意識的に全体で見るようになってから、やっぱり作品は監督のもんだな、と思うようになりましたよ。もちろん、各話演出さんに思いっきりやってもらっ
て、そこから自分が予想しなかったようないい結果が出たら、それに超したことはないんだけど、ある程度は手綱を締めないかん、コンテも直さないかん、とい
う考え方に傾きましたね。
昔は「俺が監督になったらどの演出のコンテも素通しする。絶対直さん」って言っていましたから。なんでかっていうと、やっぱり自分で全部描けないからまわりにお願いしてるんであって、 描かせておいて細かいところをちょこちょこ直すってのは、卑怯だと思っていたんですよ。
- 〈デタラメな奇跡〉としてのアニメ - PLANETS VOL.5