多面打ちは会場の都合で横一線にアマが並ぶことが多い。プロは立ちっぱなしで端から端まで往復運動を繰り返しながら、アマを相手にモグラ叩きをして いるようにも見える。手練れのプロはそんな時、まず始めに両脇のアマを退治し(ごくまれには投了し)、中心部の対局に収斂させていくのだそうだ。フルコー スの西洋料理でナイフとフォークを使う要領らしい。
多面打ちの楽しみはもちろんプロに一泡吹かせ、プロにはほめられ、周囲のアマから尊敬あるいは羨望の眼差しを受けることにあるが、よその手番で はほぼノータイムで打ち進めてきたプロが自分の前に来るたびに立ち止まり寸考を重ねたり、たまにはため息を漏らしたりしててくれる気配を感じるのも気分の いいものだ(残念ながら私の場合はその逆のケースが多いのだが)。
もう一つ大切なのは、プロに見事に勝利したりプロが褒める大善戦をしたりした隣近所のアマを大いに褒め称えること。気難しそうな男性といっぺん に打ち解けたり、還暦をとうに越されたように見える級位者の熟年女性が少女時代に戻ったような笑顔を覗かせたりしてなかなか可愛らしいものだ。これをきっ かけに親友や愛人が一人増えたりする。いろいろなプロに打ってもらうこと、その勝敗を超えて、囲碁大会に参加する醍醐味はこうした友づくりの成果にあると 思う。
”- 多面打ち