山路氏は、意外なほど叩かれていない。経緯からすれば、一番の悪者であるはずなのに。
なぜだろう。無名だからだろうか。顔が思い浮かべられないから、叩こうにも像が結べない、と?
違うな。
思うに、モテる男は、有名であっても叩かれない。女に叩かれないのはもちろん、男にも。
だって、嫉妬してると思われるのはシャクだし、それ以前に、モテるヤツには、素直に脱帽だからだ。
われわれ一般男子は、多くの場合、聖人君子みたいな愛情生活を送っている。高い徳を備えているからではない。単に悪徳を為す機会に恵まれないからだ。
私自身、もし仮に、妙齢の美女に交際を懇願されたとして、
「お申し出は大変にありがたいのですが、なにぶんにもことがことですので、一応カミさんの意向も確認してみないと返事ができません」
と、きちんとした野暮な返事ができるかどうか、自信がない。
とすれば、山路氏を責めることはできない。脱帽だ。
叩かれない理由は、もっと別なところにあるのかもしれない。
会見を見ると、山路氏は、素晴らしい声を持っている。
低い、柔らみのある声。ゆっくりとしたしゃべり方。かすかなビブラート。
あの声には、誰も逆らえない。私の記憶では、麻原彰晃が同じタイプの声を持っていた。この声の持ち主は、モテる。くやしいけれども、これはどうしようもない。
だから、私自身、ふだんからなるべくゆっくりしゃべろうと心がけている。が、気がつくと、早口になっている。いつも同じだ。
甲高い早口。せっつかれるようなせかせかしたしゃべり方。曖昧な語尾。最悪だ。
なにより早口は貧乏くさい。それに、人の話を聞いてない感じがしてよろしくない。
分かっているのだよ。
だけど直らない。どうやってもゆっくりしゃべることができない。
くやしい。
ゆっくりしゃべれないのは、アタマの回転が速いからだと思うことにしよう。
アタマの良い男はモテない、と、そう考えることにしよう。
うん、オレはアタマが良い、のだろうか。
- 彼らがあのツイートに怒った本当の理由:日経ビジネスオンライン