動画サイトとの交渉も加藤衛・前理事長の下、菅原氏が仕切ってきた。動画サイトは違法な楽曲があふれ、事業者に削除させるそばから違法配信される「いた ちごっこ」が続いていた。そこで「違法配信も流通のうちと考えれば流通がさかんということ」(加藤氏)と発想を転換。サイト事業者と包括契約を結び、サイ ト収入の2%を著作権料として徴収し、個々の利用者の違法配信を許諾済みの合法なものと扱うことにした。
2008年4月にニコニコ動画、同年10月にユーチューブと契約し、今年7月にはライブ動画配信サイトのユーストリームとも契約を結んだ。菅原氏は先月 開いた理事長就任会見で、「ネットのプラットホームと手を結んでいくことはより必要になる」と述べ、今後も包括契約の相手を増やしていく考えを示した。
背景には危機感がある。09年度にJASRACが集めた著作権料の総額は1095億円。前年比35億円の減で、過去最大級の減り幅だった。CDの売り上 げ減や、景気低迷の影響でテレビ局など放送分野からの著作権料も減少。一方、動画サイトなどからは前年比144%と急伸した。
「取れるところから取るのがJASRAC流。著作権料が減れば、作曲家ら権利者が他の管理事業者に流れてしまう。必死なんでしょう」と音楽業界関係者は解説する。
JASRACの職員の多くは入社後、地方に配属され、カラオケスナックから著作権料を集める仕事を経験する。「何度も店に足を運び、嫌がる経営者を説得して契約にこぎつけることで、JASRACのDNAが引き継がれていく」と、菅原氏はよく話す。
無限に広がるネットの網から著作権料が自動収集される無機的なシステムの後ろに、徴収の鬼たちのDNAが脈々と流れている。恐ろしいが、どこか人間的でもあり、不思議な感じだ。
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